今月のコラム(This month's column)

11NOVEMBER

2021

環境・設備設計者について

  最近思う事は、日本においてバブル崩壊後、大型建築物は俗に「箱もの」と呼ばれ社会から拒絶反応を示され設計者の存在感も薄くなった事である。
「東京タワー」「東京スカイツリー」国内で初めての超高層建築物「霞ヶ関ビル」等ほとんどの人々がその存在を知っていても、その「設計者」を知る事はない。
一時期、建築家として「丹下健三(東京都庁舎)」「黒川紀章(大阪府立国際会議場)」「菊竹清訓(江戸東京博物館)」「大谷幸夫(京都国際会議場)」「槇文彦(代官山ヒルサイドテラス)」「大高正人(千葉県立美術館)」彼らをスタンダードに知っていた時代があった。 しかし今ここで世間の「箱もの」に対するネガティブな印象を転換し、設計者の名前を知らしめる機会が目前に現れている。
それは「カーボンニュートラル(脱炭素)」である。
最近の地球環境は今までと違って自然災害が感覚的に増えたと感じられないだろうか。
今までは地球温暖化と聞いてもどちらかというと他人事だった感覚もあったが、様々な地域で自然災害が増えると身に迫った危機だと感じることが多くなった。
世界的な流れを捉えても地球温暖化対策は、今後さらに重要度を増すと予測できるのである。
例えば気象庁によると2011〜20年で1時間以内で50mm以上の、とても激しい雨を記録した回数は年平均で約334回。統計を辿れる1976〜85年の同約226回を5割近く増えている。
そのような温暖化の被害を軽減する取り組みを「適応」※1と呼ばれ、対策の強化は10月末から開かれるCOP26でも重要な論点だ。
世界気象機関(WMO)が8月にまとめた報告によると、世界の気象被害は過去50年の間で5倍に増えている。
洪水と暴風雨が約8割を占め気象変動の影響は無視できなくなっている。
2010〜19年の経済損失は1.4兆ドル(約160兆円)と1970〜79年の7倍を超えている。
その一方で早期警報の充実により気象災害の死者は約1/3に減っている。
以上のように日本では温暖化の影響は水害や土砂災害の被害が目立つが、地球規模で考えると乾燥や干ばつも多い。
米カリフォルニヤ州では近年、大規模な山火事が頻発、同ソノマ郡ではAIとカメラで山火事の発生を24時間監視し、早期に対応できる体制づくりに乗り出している。
通常、建築設計において中心になるのは「意匠設計者」であり、提案される環境対策として、使用する材料を木材としその建築物に炭素を固定する手法、建物自らエネルギーを生み出す手法として太陽光発電を取り付ける提案、屋上緑化を含む高断熱仕様壁やLow-eガラスサッシの採用や敷地周辺のグリーン計画等だろう。
それらを組み合わせて、例えば太陽光発電の一部を蓄電し、グリーン水素製造から貯留とインフラへの導入計画、近隣の太陽光を集合させるスマートシティ構想、施設の運営管理に従来のBEMSとIoT+AIを組み合わせた「DX脱炭素」、そして前面道路からEVに充電できる無線充電方式------それらを提案できるのは設備設計者であり、気象変動に対する予測は様々な対策を考える土台となり、都市や地域へのインフラの一部に予測手法を組み込む提案も、これからの環境・設備設計者の責務である。
世界基準になりつつある「TCFD提言※2」によれば、その「指標と目的」にスコープ1・2・3のGHG排出量があり、スコープ3のカテゴリ11に、設計した建物を使用するに際し(年間 CO2排出量(自社計算) ×想定使用年数)を明記する事になり設計者の脱炭素に対する意図が明確に現れる仕組みになっている。
是非、この機会に設備設計者として後世の参考になるシステムを提案し足跡を残しておきたいものである。
最初に書いた「東京タワー(竣工1958年)」設計は日建設計、構造設計は内藤多仲、「東京スカイツリー(2012年)」設計は日建設計、構造設計は土屋哲二(日建)意匠はアドバイザリーとして安藤忠雄、澄川喜一(彫刻家・元東京藝大学長)、「霞ヶ関ビル(1968年)」山下寿郎建築設計事務所(山下設計)である。

:温暖化ガスの削減などを通じて気候変動を止めようとする対策を「暖和」と呼ぶのに対して、すでに発生している気候変動の影響を低減する取り組みを「適応」と呼んでいる。
:TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures, 気候関連財務情報開示タスクフォース。その提言内容は投資家が企業の気候関連リスク・機会を適切に評価するための開示フレームワークのことをいう。

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